いびき・無呼吸の治療

CPAP療法

  1. 原理
     睡眠中、息を吸おうとするときに咽頭部分が吸い寄せられてひしゃげてしまい息を吸おうとしても吸えない状態になる (右図Aの 〇 の部分)のが閉塞型無呼吸です。起きているときは咽頭を広げる筋肉がしっかり働いていて、 息を吸ってもひしゃげることはありませんが、眠ってしまうとこの筋肉の働きが弱くなるからです。
     このようにノドがひしゃげるのを防ぐ最も確実な方法がCPAP療法です。鼻マスクを装着して就寝します。鼻マスクには 器械がつながっていて、空気が送りこまれ、ノドの内側から膨らませてつぶれないようにしています(右図B)。


  2. どのような人に適応か?
     日本では健康保険制度のもとで行われ、健康保険適用の必要条件として無呼吸低呼吸の回数が睡眠ポリグラフ検査では20回/時間以上、 簡易検査では40回/時間以上の方はこの治療を受けることが出来ます。日中の眠気や倦怠感を感じておられる方 は積極的な適応があります。また、症状が無くても、無呼吸低呼吸に伴う低酸素が顕著な方は、心臓血管系や脳の障害を 防ぐために必要と思われます。無呼吸低呼吸回数は多く重症といわれるけれども、眠気などの症状がなく、 酸素も殆ど下がらない方の場合は迷うところですが、1-2か月試してみて変化を見る方法もあります。症状は自分ではないと 思っていたが、CPAPをしたらぐっすり眠れて以前より元気になったと自覚される方が少なく無いからです。長年にわたり無呼吸症を持っていると、 眠気があっても当たり前で感じなくなってることがあるようです。


  3. 有効性
     この方法はほとんど100%の患者さんで有効であり、重症の患者さんでも健康な人と全く同様の快適な生活が送れるようになり、 無呼吸に関連した虚血性心臓病や脳血管障害による死亡を減らすことができます。また患者さんの多くは、ぐっすり眠れて、昼間の眠気がとれ、 集中力・意欲が高まることに驚かれます。“何十年ぶりかでグッスリ眠れました”、“生まれ変わったようです” など、いささかオーバーと思えるほどの表現をされる方もいます。また一部の患者さんでは、すぐには効果が現れず、 1週間~1か月ほどして昼間の眠気がとれて身体が楽になってくることに気づかれます。


  4. 治療を成功させるポイント

    CPAP装置
    1)口を閉じておくこと

    CPAPをしているときは、口を閉じておくことが大切です。鼻から吸って、鼻から息をはきます。 SASの人が口を開けて寝ていることが多いのは無呼吸そのもののためで、CPAPをして口を閉じることを意識していると、ほとんど必ず口を閉じることが出来るようになります。 CPAP中に口を開けると、息が吸いにくく、また鼻から口に空気が素通りしてノドが乾燥し苦しい思いをします。

    2)圧の設定

     圧は低すぎれば効果がなく、ある程度の圧が必要です。その適切な圧は治療中の状態をモニタして決定します。
     比較的高い圧が必要な場合、寝付くまでは圧のために不快感を感じることがあり、そのときはディレイタイマーを使用して、 低い圧で開始して寝付いた頃に高い圧になるようにします。
     一般に最初のうちは ”吸うのは楽だが、はくのが抵抗があって苦しい”と感じられますが、はく方もだんだん慣れて不快で無くなることが多いようです。
     何故息をはくときに圧力をかけるか?と疑問に思われる方が多いと思います。これには理由があります。1つは息を吸い始める前は息をはい ている時期ですが、この息をはいている時期の最後に必要な圧がかかっていないと気道が閉じてしまい、息が吸えないで無呼吸になるので、 気道を持続的に広げておくために圧をかけているのです。もう一つは、特に肥満の方は寝ると腹部の脂肪のため肺が圧迫されて 肺の末梢の一部がつぶれることが多いのですが、そういった肺胞の虚脱を圧力で防いでいるのです。ただし、これが不快で眠れない場合は、 息のはき始めだけ圧を弱めるモードを使用することもできます
     途中苦しくてはずされる方がありますが、そのような時は圧が低すぎて効果不十分で無呼吸が生じているためにはずしてしまう場合と、 自動型CPAPなどで圧が上がりすぎる場合などがあります。うまくいっていない場合はCPAP圧の設定を再度検討することが必要です。
     最近は気道の状態に応じて自動的に圧が上下する自動(オート)CPAPが一般的に使用されるようになりました。ただしこれは万能ではありません。 例えば、自動(オート)CPAPは口呼吸を閉塞性無呼吸と誤認して不必要に圧を上げすぎるなど不適切な動作も多々生じるので、医師が患者さんの自覚と、 機器の記録をよく吟味して適切な圧(固定圧または適切な圧範囲に制限したの自動圧)を設定することが重要です。
     固定圧CPAPと自動(オート)CPAPのどちらが良いかということについては、基本的には大きな差はないとされています。ただし、固定圧CPAPの方が 高血圧を改善する効果は優れているとの報告がいくつか見受けられます。気道の開存を安定的に維持するためには必要な一定圧をかけることか確実です。 またCPAP中に口が開きやすい場合は、前述のように自動型では圧が上がりすぎてうまくいかないケースがあります。一方、固定圧では不快感が強く 眠れないという方の場合は自動型を試みてみます。また、固定圧で適切に圧を調整しても胃の方に空気が入って腹満感が起こるような場合は自動型に すると、横を向いたときなどに圧が下がって胃への空気の流入が防げる可能性があります。大事なことは、寝ている間できるだけ長い時間CPAPを 使用できることで、固定型・自動型の選択は、そのことが最も重視されます。


    3)マスクの選択

     

    最近は非常に良いマスクが多種類用意されています。患者さんによって、顔面の形状が異なるので合わないことがあります。空気漏れが強い場合や、 マスクが鼻の穴をふさいでしまうことがある場合などはマスクの変更が必要です。
     マスクには、鼻の周囲をおおう鼻マスクと鼻と口の両方をカバーするフル-フェイスマスクとがあります。初めての患者さんの多くは、自分は寝ているとき 口が開いているから鼻マスクでは無理ではないかと思われるようですが、実際は殆どの方は鼻マスクで問題なく使用できます。鼻マスクの方がフル-フェイスマスク よりも低い圧で有効で、また不快感も少ないです。鼻マスクで開口が問題になる場合、顎が下がらないようにするベルト(チンストラップ)や、開口を防ぐ 細いテープを用いることがあります。
     最近は、鼻マスクの特殊型として、ピロー型といって、鼻の孔の入り口にだけをおおうマスクがよく用いられるようになりました。ピロー型は圧迫感が 少なく、それをしたままテレビを見たり読書をすることもできることのほか、鼻のほかの部分を圧迫しないので、鼻閉傾向の人には良い場合があります。 欠点は、少しずれると空気漏れの音がすることなどです。
     なお、はいた息はマスクに作られている穴から洗い流されるように作られていますので、マスクの空気穴はふさがないように注意してください。

    各種鼻マスク

    4)加湿器

     多くのCPAP機は直接接続する専用の加湿器が用意されていて、必要な方はそれを使用することが出来ます(保険適用の場合追加費用無し)。
     加湿器を使用するのは、鼻の症状(CPAPをすると鼻が痛い、鼻がつまるなど)がある場合と、喉の乾燥が強い場合などです。加湿器をつけるだけで楽にCPAP が使用できるようになる方は多いようです。ただし、加湿器は毎日の水の入れ替えが必要で、多くの機種では空焚きが出来ないので水を切らさないように 注意が必要で、また移動時には水を抜かないと機器が故障するなど、それなりの世話が必要であり、必要な人にだけ用いられます。


    5)何時間CPAPをつければ良いか?

     この問題は2つの視点から考える必要があります。無呼吸症のもたらす害は、大まかには、睡眠分断、低酸素ストレスの2つ に分けられるからです。



  5. 費用は

    健康保険が適用されており、自己負担は3割負担で月に約4,500円です。定期受診が必要です。


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